TPPについては、これまで党内で熱心な議論が行われ、いよいよ野田総理がAPECの場で交渉参加へ向けて協議に入ることを宣言することとなりました。
私は、世界の成長を日本に取り込むために、また、環太平洋の国際ルールメイキングに参画して我が国の国益を成就するために、TPP交渉に参加すべきであると主張してきました。
今回、そういった方向になったわけですが、これは、まだスタートラインに立ったばかり、というか、むしろスタートラインに立つ前の所にやっと着いただけかもしれません。
交渉に参加していないことによる当然の帰結としての情報不足の状況下において、よくTPP交渉参加の是非に関して、「関税を全て撤廃するTPPに加わったら、日本がめちゃくちゃになる」「医療の皆保険制度が壊される」「食品の安全基準もアメリカのゆるいものが押しつけられる」といった様々な懸念があります。情報提供の足りない時点においてそういった懸念が出るのはもっともなことかもしれません。
しかし、これは国際交渉であり、これまで経産省や防衛省で国際交渉を担って来た私の経験からみても、今日本国内で巷間言われているような「完璧な」自由貿易圏のようなTPPといった世界が実現することは容易には想像できません。これからの国際交渉によって、各国の国益をぶつけ合い、現実的なルールメイキングが進んでいくと思っています。それも、1年や2年で妥結するというこはきわめて困難で、数年から10年くらいのスパンの交渉となると考えるのが、ウルグアイラウンド交渉やこれまでのEPA、FTA交渉の経験から見れば、常識的な相場観だと思われます。
そういった交渉の中で、医療や食品安全基準などは、我が国のルールが崩されるようならばTPPには参加しないまでの話で、そうならないように、むしろ我が国のルールをTPP域内で標準化できるように交渉を進める。「アメリカが国益を押しつけてくるぞ!」といった懸念の声も聞こえてきますが、国際交渉ですから、むしろアメリカが国益を主張するのは当然であり、我が国も国益を主張して交渉し、知的財産や環境
政策など、利害が一致すれば妥結し、利害が一致しなければ降りない、ということにつきます。
また、例えば、米をはじめとした農業分野の関税を、交渉の中で簡単に降りてゼロにする、といったことは、国益を守る上ではあり得ない話で、それはどこの国も同様の事情があるものです。農業分野が政策的な保護なくして成り立たないのは先進国では今や当然であり、我が国も食料安全保障上、自国農業をしっかり保護しながら、貿易自由化をすすめ、国際社会で戦う我が国の企業が他国企業に比べて不利になることがないようにすることが必要です。
交渉に参加することが出来れば、これからより多くの情報提供もなされ、さらに国民的議論ができるようになると思われます。
しっかりとした情報提供をしながら、政府としてTPP交渉に参加し、交渉を進められるよう力を尽くしたいと思います。
三村和也